Huasco Valley(ワイン産地)

ワイン産地
Huasco valley 河口から約16km Freirina付近 , 画像提供:NASA ジョンソン宇宙センター地球科学 および リモートセンシング ユニット https://eol.jsc.nasa.gov, ISS022-E-19559

D.O.Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)は、チリ北部、アタカマ砂漠南部に位置する渓谷のワイン産地です。

特に、沿岸部(下流域)の「砂漠 & 冷涼」による究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)のテロワールは、世界でも極めて独特!唯一無二!

ミネラル感や塩味、酸、アロマや果実味が調和した、エレガント & 複雑な辛口ワインが登場し、世界で人気を博しています。世界から注目されているエリアです。

というわけで、D.O.Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)の歴史、テロワール、ぶどう & ワインをわかりやすく解説します。

概要

Alto Del Carmen, Nelson Pérez, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

D.O.Atacama(アタカマ)のサブリージョンであるD.O.Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)は、チリ北部、アタカマ砂漠南部、おおよそ南緯28〜29°の低緯度に位置する渓谷のワイン産地です。

渓谷は、アタカマ砂漠に囲まれています。さらに東に6,000m級のアンデス山脈、西にフンボルト寒流が流れる太平洋があります。渓谷の中心にはHuasco (ウアスコ)川が流れています。

丘陵部(中流域)は、乾燥 & 温暖な気候で、16世紀から甘口ワイン「Pajarete(パハレテ)」や蒸留酒ピスコがつくられてきました。

沿岸部(下流域)は、フンボルト寒流の影響で冷涼すぎて、ブドウ栽培ができませんでした。が、21世紀になり、農業技術を屈指して、ブドウ栽培に成功し、辛口ワインをつくりだしました。

現在、「砂漠 & 冷涼」による究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)のワインとして、人気を博しています。

歴史

Panoramica de Freirina, Danny.bastian, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)でのワイン造りの歴史の概略は、以下の通りです。

  1. 16世紀、スペイン人入植と共に、丘陵部(中流域)で、甘口ワイン「Pajarete(パハレテ)」を生産
  2. 17世紀、丘陵部(中流域)で、蒸留酒ピスコの生産
  3. 21世紀、究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)の沿岸部(下流域)で、辛口ワインの生産

少し補足します。

Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)でのワイン造りは、16世紀に、スペイン人が入植した際に、宣教師によってもたらされた甘口ワイン「Pajarete(パハレテ)」にはじまります。

甘口ワイン「Pajarete(パハレテ)」は、温暖な丘陵部(中流域)で、Moscatel de Alejandria(モスカテル アレハンドリア)などから造られてきました。

17世紀になると、同じモスカテル種などのブドウを使って、蒸留酒ピスコも生産されるようになります。1937年には原産地呼称D.O. Atakama / Uasco Valleyとして認定され、ピスコの代表的産地の1つとなっています。

Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)で、ワイン造りの歴史が大きく動いたのは、21世紀。

それまで、ブドウ栽培が不可能だと思われていた沿岸部(下流域)で、2010年にワイナリーのVnentisquero(ヴェンティスケーロ)が、Nicolasa(ニコラサ)ぶどう園で、栽培をはじめました。

沿岸部(下流域)は、アタカマ砂漠による乾燥とフンボルト寒流による寒さとで、ブドウ栽培ができない環境でした。

しかし、Vnentisquero(ヴェンティスケーロ)は、革新的な農業技術や適応策により、ブドウ栽培を可能にし、高品質なワインをうみだすことに成功。

ミネラル感や塩味、酸、アロマや果実味が調和した、エレガント & 複雑な辛口ワインは、究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)のワインとして、世界で人気を博しています。

テロワール

D.O.Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)は、チリ北部のAtacama(アタカマ)州にある、アタカマ砂漠南部、おおよそ南緯28〜29°の低緯度に位置する渓谷のワイン産地です。

渓谷の長さは約150Km、東のアンデス山脈地域から、西のフンボルト寒流が流れる太平洋へと、アタカマ砂漠を横断しています。渓谷の中心にはHuasco(ウアスコ)川が流れています。

アタカマ砂漠に囲まれているため、年間降水量は30~50mm程度と極めて少なく、年間約300日以上が晴れの日となる、非常に乾燥した砂漠気候です。

渓谷は、樹木がなく、まばらに丈の短い草・低木が分布する乾燥した土地です。その乾燥した土地に、Huasco(ウアスコ)川からの灌漑を利用して、ぶどう畑などの緑地が、川沿いに広がっています。

ぶどう畑が広がっているのは、渓谷の丘陵部(中流域) & 沿岸部(下流域)、標高100m〜3,500m付近です。

丘陵部(中流域)では乾燥 & 温暖な地中海性気候、沿岸部(下流域)では乾燥 & 冷涼です。

とくに、沿岸部(下流域)は、究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)と呼ばれています。

ぶどう畑が広がっている土壌は、おおむね、沖積土、砂質、花崗岩質、石灰質などが混在した土壌となっています。

Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)沿いには、以下の主要な街があります。

太平洋からの距離標高
Alto del Carmen(アルト デル カルメン)90km1,500m
Vallenar(ヴァレナール)50km379m
Freirina(フレイリナ)16km102m
Huasco(ウアスコ)0km35m

Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)のテロワールの特徴を掘り下げてみます。

強い紫外線 & 多い日照量

Desert view, René Bongard, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)は、紫外線(日差し)が強く、日照時間が多いです。

紫外線(日差し)が強いのは、南緯28〜29°という低緯度に位置するからです。

日照時間が多いのは、アタカマ砂漠の影響で、「年間降水量が非常に少ない & 年間約300日以上が晴れ」という気候のためです。

メリットは以下の通りです。

  • 光合成が促進され糖度が高まる
  • ブドウの皮が厚くなり、ポリフェノール(タンニンやアントシアニン)が豊富になる。
  • アロマ豊かになる

一方で以下のデメリットもあります。

  • 酸の分解が進みやすく、酸味が低下しやすい
  • 高温すぎるとアロマが飛びやすい

そのデメリットを、Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)では、以下の方法で、打ち消しています。

  • 丘陵部(中流域)では、高地 & 砂漠 & アンデス山脈がもたらす、昼夜の寒暖差を利用
  • 沿岸部(下流域)では、フンボルト寒流がもたらす、冷涼な海霧と海風を利用

というわけで、Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)は、日差し(紫外線)が強く、日照時間が多いです。

丘陵部 & 沿岸部のぶどう畑

HACIENDA ATACAMA, valledelhuasco, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

ぶどう畑は、渓谷の丘陵部(中流域) & 沿岸部(下流域)、標高100m〜3,500m付近に広がっています。

なお、山岳部(上流域)、丘陵部(中流域)、沿岸部(下流域)の地形の特徴は以下の通りです。

  • 山岳部(上流域)
    • 標高 3,000~5,000m
    • 山岳地帯
    • 氷河や岩石氷河
    • 急峻な谷
  • 丘陵部(中流域)
    • 標高 500~2,000メートル
    • 丘陵地帯
    • 河岸段丘
  • 沿岸部(下流域)
    • 標高 0~500メートル
    • 平野
    • 河岸段丘

丘陵部は温暖、夜は寒い

Alto Del Carmen, Nelson Pérez, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

渓谷の丘陵部(中流域)は、温暖です。ただし、夜は寒いです。

なぜなら、昼間は、アタカマ砂漠や、低緯度・高地による日差しの強さなどで空気が暖まるからです。

ただし夜になると、アタカマ砂漠の放射熱や、アンデス山脈からの吹き下ろしてくる風などの影響で、寒くなります。

このように、渓谷の丘陵部(中流域)は、温暖です。ただし、夜は寒いです。

沿岸部は冷涼

ウアスコ川沿岸部および海霧 , 画像提供:NASA ジョンソン宇宙センター地球科学 および リモートセンシング ユニット https://eol.jsc.nasa.gov, ISS007-E-5888

沿岸部(下流域)は、冷涼な気候です。

なぜなら、沿岸で発生した冷たい「海霧と海風」が、沿岸部(下流域)の渓谷の奥深くまで入り込むからです。

冷たい「海霧と海風」は、太平洋を流れるフンボルト寒流が生みだしています。

  1. 未明に沿岸で発生する冷たい海霧(カマンチャカ)は、渓谷へ入り込む
  2. チリ特有の海岸山脈がないので、冷たい海霧(カマンチャカ)が、さらに渓谷奥まで入り込む
  3. 太陽が昇ると、冷たい海霧(カマンチャカ)は消える
  4. 太平洋から冷たい海風が吹き出す

このように、沿岸部(下流域)は、冷涼な気候です。

究極の栽培環境

ウアスコヴァレー 河口から約16km Freirina付近 , 画像提供:NASA ジョンソン宇宙センター地球科学 および リモートセンシング ユニット https://eol.jsc.nasa.gov, ISS022-E-19561

沿岸部(下流域)は、究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)と呼ばれています。

なぜなら、アタカマ砂漠の乾燥気候と、フンボルト寒流がうみだす冷たい「海霧や海風」による冷涼気候のため、植物が育つには過酷な環境だからです。

厳しすぎる過酷な環境のため、そのままの環境では、ブドウが育ちません。

しかし近年、革新的な農業技術や適応策により、ブドウ栽培を可能にし、高品質なワインをうみだしています。

以上のことから、沿岸部(下流域)は、究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)と呼ばれています。

土壌

Desert view, René Bongard, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

渓谷には、沖積土、砂質、花崗岩質、石灰質など、ブドウ栽培に適した土壌が混在しています。

土壌が形成された主な理由は、以下のとおりです。

  • 花崗岩質土壌…アンデス造山運動により形成
  • 沖積土壌や砂質土壌…ウアスコ川の堆積作用によって形成
  • 石灰質土壌…海底が隆起

なお、Huasco Valleyの各土壌とブドウ栽培とワインの関係は以下の通りです。

  • 花崗岩質土壌
    • ミネラル豊富で酸が保持される
    • シラー、ペドロ・ヒメネス
    • エレガントでミネラル感のあるワイン
  • 沖積土壌
    • 保水性・排水性のバランスが良い
    • モスカテル種
    • 甘口ワイン(パハレテ)に最適
  • 砂質土壌
    • 水はけが良く病害に強い
    • モスカテル、シラー
    • 凝縮感のある果実、芳醇な甘口・赤ワイン
  • 石灰質土壌
    • カルシウム豊富、フレッシュな酸
    • シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン
    • エレガントでミネラル感のあるワイン

ぶどう & ワイン

ウアスコ川の起点, Alturas Oceanicas, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)のぶどう & ワインは、沿岸部(下流域)と丘陵部(中流域)とで、大きく2つに分けられます。

沿岸部(下流域)では、「砂漠による超乾燥 & 冷涼気候」という究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)で、世界でも極めて独特で唯一無二の高品質ワインが、近年、登場しはじめました。世界で人気を博しています。

丘陵部(中流域)では、16〜17cからある伝統的な甘口ワイン「パハレテ」とブドウ蒸留酒「ピスコ」が生産されてきました。近年は、辛口ワインも造るようになってきています。

なお、Wines of Chileによると、Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)で栽培されている主なブドウ品種の面積は、以下の通りです。

シャルドネ 9.3 ha

ソーヴィニヨン ブラン 7.2 ha

ピノ ノワール 6 ha

シラー 5.3 ha

メルロー 3.5 ha

ガルナッチャ 2.6 ha

パイス 1.9 ha

マルベック 1.7 ha

カルメネール 1.2 ha

Wine Regions Map – Wines of Chile

沿岸部

沿岸部(下流域)では、ミネラル感や塩味、酸、アロマや果実味が調和した、エレガントで、複雑な辛口ワインが、登場しはじめ、世界で人気を博しています。特にソーヴィニヨン・ブランは、世界から高い評価を受けています。

理由は、「砂漠 & 冷涼」による究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)と石灰質土壌のテロワールです。世界でも極めて独特で、唯一無二のテロワールです。

究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)を生みだす要因は、以下です。

  • フンボルト海流がうみだす冷たい「海霧 & 海風」
  • アタカマ砂漠による乾燥 & 多い日照量
  • 南緯28〜29°の低緯度による強い紫外線

また石灰質土壌により、フレッシュでミネラル感のある白ワインが生まれます。

冷涼な環境を好むシャルドネ、ソーヴィニヨン ブランなどで成功しています。特にソーヴィニヨン・ブランは、世界から高い評価を受けています。

沿岸部(下流域)は、アタカマ砂漠による乾燥とフンボルト寒流による寒さとで、ぶどう栽培が不可能だと、思われてきました。

しかし、ワイナリーのVnentisquero(ヴェンティスケーロ)が、目をつけます。

2008年、沿岸部(下流域)のNicolasa(ニコラサ)(太平洋から21Km)、Longomilla(ロンゴミラ)(太平洋から32km)に、ぶどう畑を開拓しました。

革新的な農業技術や適応策により、ブドウ栽培を可能にし、高品質なワインをうみだすことに成功。

現在では、ミネラル感や塩味、酸、アロマや果実味が調和した、エレガントで、複雑な辛口ワインが、登場しはじめ、世界で人気を博しています。特にソーヴィニヨン・ブランは、世界から高い評価を受けています。

丘陵部

Muscat d’Alexandrie Alexis Kreyder, CC0, via Wikimedia Commons

Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)丘陵部(中流域)では、甘口ワイン「Pajarete(パハレテ)」、ブドウ蒸留酒「ピスコ」が、伝統的に生産されています。

さらに近年は、辛口ワインも造るようになってきています。

温暖な地中海性気候 & 低緯度による強い日差しと、昼夜の寒暖差とを利用して、16世紀からブドウ栽培を行っています。

生産されている主なぶどうは以下のとおり。

  • Moscatel de Alejandria(モスカテル アレハンドリア)
  • Moscatel de Austria(モスカテル オーストリア)
  • Pedro Ximenez(ペドロ ヒメネス)
  • Moscatel Rosada(モスカテル・ロサダ)
  • Torontel(トロンテル)
  • Pais(パイス)

甘口ワイン「Pajarete(パハレテ)」は、16世紀に、スペイン人が入植した際に、宣教師によってもたらされました。

Pajarete(パハレテ)は、はちみつやトロピカルフルーツのニュアンス、濃厚で甘さがある味わいに、心地よい酸味とバランスのよい甘口ワインです。

スペイン発祥のパハレテを独自に発展させており、現在スペインにあるパハレテとは別物になっています。

またブドウ蒸留酒「ピスコ」は、17世紀ごろ誕生したのではないかと言われています。

さらに近年は、辛口ワインも造るようになってきています。

温暖な地中海性気候、低緯度による強い日差し、昼夜の寒暖差を利用して、温暖な気候を好む品種の辛口ワインを造りはじめています。シャルドネ、シラー、マルベック、メルロー、グルナッシュ、ピノ・ノワール、プティ・ヴェルドなどです。

まとめ

Huasco valley 河口から約16km Freirina付近 , 画像提供:NASA ジョンソン宇宙センター地球科学 および リモートセンシング ユニット https://eol.jsc.nasa.gov, ISS022-E-19559

D.O.Huasco Valley(ウアスコ ヴァレー)は、チリ北部、アタカマ砂漠南部に位置する渓谷のワイン産地です。

沿岸部(下流域)の「乾燥 & 寒流」による究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)のテロワールは、世界でも極めて独特!唯一無二!

ミネラル感や塩味、酸、アロマや果実味が調和した、エレガントで、複雑な辛口ワインが登場し、世界で人気を博しています。

世界から注目されているエリアです。

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