D.O.Huasco Valleyは、チリ北部、アタカマ砂漠南部に位置する渓谷のワイン産地です。
特に、沿岸部(下流域)の「砂漠 & 冷涼」による究極の栽培環境のテロワールは、世界でも極めて独特!唯一無二!
ミネラル感や塩味、酸、アロマや果実味が調和した、エレガント & 複雑な辛口ワインが登場し、世界で人気を博しています。世界から注目されているエリアです。
というわけで、D.O.Huasco Valleyの歴史、テロワール、ぶどう & ワインをわかりやすく解説します。
概要

D.O.AtacamaのサブリージョンであるD.O.Huasco Valleyは、チリ北部、アタカマ砂漠南部、おおよそ南緯28〜29°の低緯度に位置する渓谷のワイン産地です。
渓谷は、アタカマ砂漠に囲まれています。さらに東に6,000m級のアンデス山脈、西にフンボルト寒流が流れる太平洋があります。渓谷の中心にはHuasco (ウアスコ)川が流れています。
丘陵部(中流域)は、乾燥 & 温暖な気候で、16世紀から甘口ワイン「Pajarete」や蒸留酒ピスコがつくられてきました。
沿岸部(下流域)は、フンボルト寒流の影響で冷涼すぎて、ブドウ栽培ができませんでした。が、21世紀になり、農業技術を屈指して、ブドウ栽培に成功し、辛口ワインをつくりだしました。
現在、「砂漠 & 冷涼」による究極の栽培環境のワインとして、人気を博しています。
歴史

Huasco Valleyでのワイン造りの歴史の概略は、以下の通りです。
- 16世紀、スペイン人入植と共に、丘陵部(中流域)で、甘口ワイン「Pajarete」を生産
- 17世紀、丘陵部(中流域)で、蒸留酒ピスコの生産
- 21世紀、究極の栽培環境の沿岸部(下流域)で、辛口ワインの生産
少し補足します。
Huasco Valleyでのワイン造りは、16世紀に、スペイン人が入植した際に、宣教師によってもたらされた甘口ワイン「Pajarete」にはじまります。
甘口ワイン「Pajarete」は、温暖な丘陵部(中流域)で、Moscatel de Alejandriaなどから造られてきました。
17世紀になると、同じモスカテル種などのブドウを使って、蒸留酒ピスコも生産されるようになります。1937年には原産地呼称D.O. Atakama / Uasco Valleyとして認定され、ピスコの代表的産地の1つとなっています。
Huasco Valleyで、ワイン造りの歴史が大きく動いたのは、21世紀。
それまで、ブドウ栽培が不可能だと思われていた沿岸部(下流域)で、2010年にワイナリーのVnentisqueroが、Nicolasaぶどう園で、栽培をはじめました。
沿岸部(下流域)は、アタカマ砂漠による乾燥とフンボルト寒流による寒さとで、ブドウ栽培ができない環境でした。
しかし、Vnentisqueroは、革新的な農業技術や適応策により、ブドウ栽培を可能にし、高品質なワインをうみだすことに成功。
ミネラル感や塩味、酸、アロマや果実味が調和した、エレガント & 複雑な辛口ワインは、究極の栽培環境のワインとして、世界で人気を博しています。
テロワール
D.O.Huasco Valleyは、チリ北部のAtacama州にある、アタカマ砂漠南部、おおよそ南緯28〜29°の低緯度に位置する渓谷のワイン産地です。
渓谷の長さは約150Km、東のアンデス山脈地域から、西のフンボルト寒流が流れる太平洋へと、アタカマ砂漠を横断しています。渓谷の中心にはHuasco(ウアスコ)川が流れています。
アタカマ砂漠に囲まれているため、年間降水量は30~50mm程度と極めて少なく、年間約300日以上が晴れの日となる、非常に乾燥した砂漠気候です。
渓谷は、樹木がなく、まばらに丈の短い草・低木が分布する乾燥した土地です。その乾燥した土地に、Huasco川からの灌漑を利用して、ぶどう畑などの緑地が、川沿いに広がっています。
ぶどう畑が広がっているのは、渓谷の丘陵部(中流域) & 沿岸部(下流域)、標高100m〜3,500m付近です。
丘陵部(中流域)では乾燥 & 温暖な地中海性気候、沿岸部(下流域)では乾燥 & 冷涼です。
とくに、沿岸部(下流域)は、究極の栽培環境と呼ばれています。
ぶどう畑が広がっている土壌は、おおむね、沖積土、砂質、花崗岩質、石灰質などが混在した土壌となっています。
Huasco Valley沿いには、以下の主要な街があります。
街 | 太平洋からの距離 | 標高 |
Alto del Carmen | 90km | 1,500m |
Vallenar | 50km | 379m |
Freirina | 16km | 102m |
Huasco | 0km | 35m |
Huasco Valleyのテロワールの特徴を掘り下げてみます。
強い紫外線 & 多い日照量

Huasco Valleyは、紫外線(日差し)が強く、日照時間が多いです。
紫外線(日差し)が強いのは、南緯28〜29°という低緯度に位置するからです。
日照時間が多いのは、アタカマ砂漠の影響で、「年間降水量が非常に少ない & 年間約300日以上が晴れ」という気候のためです。
メリットは以下の通りです。
- 光合成が促進され糖度が高まる
- ブドウの皮が厚くなり、ポリフェノール(タンニンやアントシアニン)が豊富になる。
- アロマ豊かになる
一方で以下のデメリットもあります。
- 酸の分解が進みやすく、酸味が低下しやすい
- 高温すぎるとアロマが飛びやすい
そのデメリットを、Huasco Valleyでは、以下の方法で、打ち消しています。
- 丘陵部(中流域)では、高地 & 砂漠 & アンデス山脈がもたらす、昼夜の寒暖差を利用
- 沿岸部(下流域)では、フンボルト寒流がもたらす、冷涼な海霧と海風を利用
というわけで、Huasco Valleyは、日差し(紫外線)が強く、日照時間が多いです。
丘陵部 & 沿岸部のぶどう畑

ぶどう畑は、渓谷の丘陵部(中流域) & 沿岸部(下流域)、標高100m〜3,500m付近に広がっています。
なお、山岳部(上流域)、丘陵部(中流域)、沿岸部(下流域)の地形の特徴は以下の通りです。
- 山岳部(上流域)
- 標高 3,000~5,000m
- 山岳地帯
- 氷河や岩石氷河
- 急峻な谷
- 丘陵部(中流域)
- 標高 500~2,000メートル
- 丘陵地帯
- 河岸段丘
- 沿岸部(下流域)
- 標高 0~500メートル
- 平野
- 河岸段丘
丘陵部は温暖、夜は寒い

渓谷の丘陵部(中流域)は、温暖です。ただし、夜は寒いです。
なぜなら、昼間は、アタカマ砂漠や、低緯度・高地による日差しの強さなどで空気が暖まるからです。
ただし夜になると、アタカマ砂漠の放射熱や、アンデス山脈からの吹き下ろしてくる風などの影響で、寒くなります。
このように、渓谷の丘陵部(中流域)は、温暖です。ただし、夜は寒いです。
沿岸部は冷涼

沿岸部(下流域)は、冷涼な気候です。
なぜなら、沿岸で発生した冷たい「海霧と海風」が、沿岸部(下流域)の渓谷の奥深くまで入り込むからです。
冷たい「海霧と海風」は、太平洋を流れるフンボルト寒流が生みだしています。
- 未明に沿岸で発生する冷たい海霧(カマンチャカ)は、渓谷へ入り込む
- チリ特有の海岸山脈がないので、冷たい海霧(カマンチャカ)が、さらに渓谷奥まで入り込む
- 太陽が昇ると、冷たい海霧(カマンチャカ)は消える
- 太平洋から冷たい海風が吹き出す
このように、沿岸部(下流域)は、冷涼な気候です。
究極の栽培環境

沿岸部(下流域)は、究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)と呼ばれています。
なぜなら、アタカマ砂漠の乾燥気候と、フンボルト寒流がうみだす冷たい「海霧や海風」による冷涼気候のため、植物が育つには過酷な環境だからです。
厳しすぎる過酷な環境のため、そのままの環境では、ブドウが育ちません。
しかし近年、革新的な農業技術や適応策により、ブドウ栽培を可能にし、高品質なワインをうみだしています。
以上のことから、沿岸部(下流域)は、究極の栽培環境(エクストリーム ウェザー)と呼ばれています。
土壌

渓谷には、沖積土、砂質、花崗岩質、石灰質など、ブドウ栽培に適した土壌が混在しています。
土壌が形成された主な理由は、以下のとおりです。
- 花崗岩質土壌…アンデス造山運動により形成
- 沖積土壌や砂質土壌…ウアスコ川の堆積作用によって形成
- 石灰質土壌…海底が隆起
なお、Huasco Valleyの各土壌とブドウ栽培とワインの関係は以下の通りです。
- 花崗岩質土壌
- ミネラル豊富で酸が保持される
- シラー、ペドロ・ヒメネス
- エレガントでミネラル感のあるワイン
- 沖積土壌
- 保水性・排水性のバランスが良い
- モスカテル種
- 甘口ワイン(パハレテ)に最適
- 砂質土壌
- 水はけが良く病害に強い
- モスカテル、シラー
- 凝縮感のある果実、芳醇な甘口・赤ワイン
- 石灰質土壌
- カルシウム豊富、フレッシュな酸
- シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン
- エレガントでミネラル感のあるワイン
ぶどう & ワイン

Huasco Valleyのぶどう & ワインは、沿岸部(下流域)と丘陵部(中流域)とで、大きく2つに分けられます。
沿岸部(下流域)では、「砂漠による超乾燥 & 冷涼気候」という究極の栽培環境で、世界でも極めて独特で唯一無二の高品質ワインが、近年、登場しはじめました。世界で人気を博しています。
丘陵部(中流域)では、16〜17cからある伝統的な甘口ワイン「パハレテ」とブドウ蒸留酒「ピスコ」が生産されてきました。近年は、辛口ワインも造るようになってきています。
なお、Wines of Chileによると、Huasco Valleyで栽培されている主なブドウ品種の面積は、以下の通りです。
シャルドネ 9.3 ha
ソーヴィニヨン ブラン 7.2 ha
ピノ ノワール 6 ha
シラー 5.3 ha
メルロー 3.5 ha
ガルナッチャ 2.6 ha
パイス 1.9 ha
マルベック 1.7 ha
カルメネール 1.2 ha
Wine Regions Map – Wines of Chile
沿岸部

沿岸部(下流域)では、ミネラル感や塩味、酸、アロマや果実味が調和した、エレガントで、複雑な辛口ワインが、登場しはじめ、世界で人気を博しています。特にソーヴィニヨン・ブランは、世界から高い評価を受けています。
理由は、「砂漠 & 冷涼」による究極の栽培環境と石灰質土壌のテロワールです。世界でも極めて独特で、唯一無二のテロワールです。
究極の栽培環境を生みだす要因は、以下です。
- フンボルト海流がうみだす冷たい「海霧 & 海風」
- アタカマ砂漠による乾燥 & 多い日照量
- 南緯28〜29°の低緯度による強い紫外線
また石灰質土壌により、フレッシュでミネラル感のある白ワインが生まれます。
冷涼な環境を好むシャルドネ、ソーヴィニヨン ブランなどで成功しています。特にソーヴィニヨン・ブランは、世界から高い評価を受けています。
沿岸部(下流域)は、アタカマ砂漠による乾燥とフンボルト寒流による寒さとで、ぶどう栽培が不可能だと、思われてきました。
しかし、ワイナリーのVnentisqueroが、目をつけます。

2008年、沿岸部(下流域)のNicolasa(太平洋から21Km)、Longomilla(太平洋から32km)に、ぶどう畑を開拓しました。
革新的な農業技術や適応策により、ブドウ栽培を可能にし、高品質なワインをうみだすことに成功。
現在では、ミネラル感や塩味、酸、アロマや果実味が調和した、エレガントで、複雑な辛口ワインが、登場しはじめ、世界で人気を博しています。特にソーヴィニヨン・ブランは、世界から高い評価を受けています。
丘陵部

Huasco Valley丘陵部(中流域)では、甘口ワイン「Pajarete」、ブドウ蒸留酒「ピスコ」が、伝統的に生産されています。
さらに近年は、辛口ワインも造るようになってきています。
温暖な地中海性気候 & 低緯度による強い日差しと、昼夜の寒暖差とを利用して、16世紀からブドウ栽培を行っています。
生産されている主なぶどうは以下のとおり。
- Moscatel de Alejandria
- Moscatel de Austria
- Pedro Ximenez
- Moscatel Rosada
- Torontel
- Pais
甘口ワイン「Pajarete」は、16世紀に、スペイン人が入植した際に、宣教師によってもたらされました。
Pajareteは、はちみつやトロピカルフルーツのニュアンス、濃厚で甘さがある味わいに、心地よい酸味とバランスのよい甘口ワインです。
スペイン発祥のパハレテを独自に発展させており、現在スペインにあるパハレテとは別物になっています。
またブドウ蒸留酒「ピスコ」は、17世紀ごろ誕生したのではないかと言われています。
さらに近年は、辛口ワインも造るようになってきています。
温暖な地中海性気候、低緯度による強い日差し、昼夜の寒暖差を利用して、温暖な気候を好む品種の辛口ワインを造りはじめています。シャルドネ、シラー、マルベック、メルロー、グルナッシュ、ピノ・ノワール、プティ・ヴェルドなどです。
まとめ

D.O.Huasco Valleyは、チリ北部、アタカマ砂漠南部に位置する渓谷のワイン産地です。
沿岸部(下流域)の「乾燥 & 寒流」による究極の栽培環境のテロワールは、世界でも極めて独特!唯一無二!
ミネラル感や塩味、酸、アロマや果実味が調和した、エレガントで、複雑な辛口ワインが登場し、世界で人気を博しています。
世界から注目されているエリアです。
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