チリのD.O.Elqui ValleyにあるAlcohuaz村のシラーが「フランス北ローヌのコート・ロティやエルミタージュを彷彿させる!」として、専門家や愛好家から高い評価を得ていることをご存じですか?
そんなワイン産地Elqui Valleyのテロワールとワイン、そしてその秘密を探ります。
概要

D.O.Elqui Valleyは、チリ北部、アタカマ砂漠南端、おおよそ南緯29〜30°の低緯度に位置する渓谷のワイン産地です。D.O.Coquimboのサブリージョンになります。
渓谷の長さは約140Km。
東の6,000m級のアンデス山脈斜面からはじまり、アタカマ砂漠の南の端を横断して、西のフンボルト寒流が流れる太平洋までの渓谷です。
渓谷の中心にはElqui川が流れています。
ぶどう畑は、内陸の上・中流域(Andesエリア)から、沿岸の下流域(Costaエリア)、標高おおよそ200m〜2,200mに広がっています。
伝統的に、上・中流域(Andesエリア)で、モスカテル種を使った蒸留酒ピスコの生産をしてきました。
1998年になって、ワイナリー「Vina Falernia」が、Elqui Valleyで、はじめてワイン生産を開始。成功すると、(当時の)チリ最北のワイン産地として、注目をあつめて、国際的な評価を確立。
現在では、沿岸の冷涼気候栽培地、昼夜の大きな寒暖差、究極の栽培環境などを活用、良質なワインを造りだし、世界的に評価されています。
特に、ドメーヌ「Viñedos de Alcohuaz」が、標高2,200mのAlcohuaz村でつくるシラーは、「北ローヌのコート・ロティやエルミタージュを彷彿させる繊細さと力強さをもったシラー」として、専門家や愛好家から高い評価を得ています。
では、歴史からから解説していきます。
歴史

Elqui Valleyのブドウ栽培の歴史の概略は、以下の通りです。
- 16世紀半ば、沿岸部のLa Serenaで、チリで一番最初のブドウ畑。ミサ用のワイン造り。失敗
- その後、内陸部で、モスカテル種で、ミサ用のワイン造り。成功。
- 18世紀ごろ、内陸の街VicuñaやPisco Elquiなどで、ピスコ用ブドウ栽培
- 1998年、Vina Falerniaが、ワイン生産開始
- 現在、冷涼気候栽培地、昼夜の大きな寒暖差、究極の栽培環境などを活用し、良質なワインを造りだし、世界的に評価
少し、補足します。
16世紀半ば、Elqui Valley河口にあたる太平洋沿岸の街、La Serenaは、チリで一番最初のブドウ畑として、ブドウ樹が植えられました。ミサ用のワイン造りのためです。
植えた人物は、スペインのコンキスタドール(征服者)のFrancisco de Aguirre。その時、植えたのはパイス種。しかし冷涼すぎたため、パイス種は、Elqui Valleyで成功しませんでした。
その後、渓谷内陸の河川沿いの肥沃な土地で、モスカテル種のぶどうが、灌漑を利用して生産されるようになりました。沿岸と違って、内陸は、暖かい気候なためです。
18世紀になると、蒸留酒のピスコ用ブドウ生産がメインとなります。モスカテル種やPedro Ximenezなどです。
生産地域は主に、内陸の街、VicuñaやPisco Elquiあたりです。
高品質のピスコ用ブドウができるため、1931年には原産地呼称D.O.Coquimbo / Elqui Valleyとして認定され、ピスコの代表的産地の1つとなっています。
ワイン生産は、1998年、ワイナリー「Vina Falernia」が開始。成功すると、(当時の)チリ最北のワイン産地として、注目をあつめて、国際的な評価を確立。
現在では、沿岸の冷涼気候栽培地、昼夜の大きな寒暖差、究極の栽培環境などを活用し、良質なワインを造りだし、世界的に評価されています。
テロワール
D.O.Elqui Valleyは、チリ北部のCoquimbo州にある、アタカマ砂漠南端、おおよそ南緯29〜30°の低緯度に位置する渓谷のワイン産地です。
Elquiとは、インカ帝国の公用語でもあった先住民の言語ケチュア語で「狭い谷」を意味しています。その意味通り、渓谷は狭く、斜面は急です。
渓谷の長さは約140Km。東のアンデス山脈地域から、西のフンボルト寒流が流れる太平洋へと、アタカマ砂漠を横断しています。中心には、Elqui川が流れています。
アタカマ砂漠の南端に位置するため、年間降水量100mm以下と非常に少なく、年間約300日以上が晴れの日となる、乾燥したステップ気候です。そのためオーガニック栽培にも適しています。
狭い渓谷の両側に乾燥した岩だらけの茶色の山々。急斜面に、Elqui川に沿って、灌漑によってできたブドウ畑の緑の谷が、多く広がっています。
ぶどう畑が広がっている流域の地形、および、気温の特徴は、以下の通りです。
- 上流域(Andesエリア)
- 標高1,200〜2,200m
- アンデス山脈の高地。急峻な山岳地帯
- 川の勾配が急、V字谷
- 岩石や礫
- 温暖。昼夜の寒暖差25℃以上
- 中流域(Andesエリア)
- 標高600〜1,200m
- 山地から平野部へ移行する地域
- 河岸段丘や、川沿いに狭い平地
- 礫や砂
- 温暖。昼夜の寒暖差20℃
- 下流域(Costa)
- 標高200〜600m
- 川幅が広がり、流れが穏やか
- 河口付近に、氾濫原や三角州
- 砂やシルト
- 冷涼
ぶどう畑が広がっている土壌には、火山岩・深成岩(花崗岩)・堆積岩・沖積土などが、複雑に分布しています。
Elqui Valley沿いには、以下の主要な街があります。
街 | 太平洋から距離 | 標高 | D.O. エリア | 上・中・下流 |
---|---|---|---|---|
Alcohuaz | 120km | 2,200m | Andes | 上流域 |
Paihuano | 86km | 1,200m | Andes | 上流域 |
Vicuña | 61km | 650m | Andes | 中流域 |
La Serena | 0km | 0m | Costa | 下流域 |
以下、Elqui Valleyのテロワールの特徴を、深掘りします。
強い日差 & 多い日照

Elqui Valleyは、日差し(=紫外線)が強く、日照時間が多いです。
日差し(=紫外線)が強いのは、南緯29°〜30°という低緯度に位置するからです。
日照時間が多いのは、アタカマ砂漠の影響で、「年間降水量が100mm以下で非常に少ない & 年間約300日以上が晴れ」という気候のためです。
日差し(=紫外線)が強く、日照時間が多いと、以下のメリット・デメリットがあります。
- メリット
- 光合成が促進され糖度が高まる
- ブドウの皮が厚くなり、ポリフェノール(タンニンやアントシアニン)が豊富になる。
- アロマ豊かになる
- デメリット
- 酸の分解が進みやすく、酸味が低下しやすい
- 高温すぎるとアロマが飛びやすい
Elqui Valleyでは、デメリットを冷気を利用して、打ち消しています。
具体的には、日較差(=昼夜の寒暖差)や、アンデス山脈からの冷風、フンボルト寒流がもたらす冷涼気候などです。
というわけで、Elqui Valleyは、日差し(紫外線)が強く、日照時間が多いです。
南緯29°〜30°ってどれくらい?
南緯29°〜30°のイメージがつきづらい人は、(北緯になりますが、)日本だと鹿児島県の屋久島のやや南あたりに該当するとイメージしてもらえればよいかと思います。
非常に大きい日較差

Elqui Valleyは、日較差、つまり昼夜の寒暖差が、非常に大きいことが、テロワール特徴の1つです。上流域では、日較差が、25℃以上にもなります。
日較差が、非常に大きくなる理由は、アタカマ砂漠 × 晴天です。さらに上・中流域(Andesエリア)では、「高い標高」と「アンデス山脈からの冷風」の要因も加わり、より大きくなります。
日較差が、非常に大きくなる要因は、以下の通りです。
- アタカマ砂漠
- 乾燥し、湿度が低い
- 昼は、気温が急激に暖まる
- 夜は、気温が急激に低下する
- 乾燥し、湿度が低い
- 晴天
- 年間300日以上晴天。夜は、放射冷却が強い。
- 高い標高
- 標高が高いほど大気が薄いため、太陽光が大気に吸収される前に地表に届き、太陽の直射光が強くなる
- 太陽の直射光が強いと、(さらに乾燥もしているので、)地表が温まりやすいので、昼の気温が高くなる
- 夜は放射冷却が進み、急激に冷える。
- アンデス山脈からの冷風
- 夜、4000m以上の山脈高地の空気が、急激に冷却され、密度が増して重くなる
- 冷却された空気が、重力により一気に駆け下り、急激に下がる
上〜下流域での日較差は、以下の通りです。
- 上流域(Andesエリア):25℃以上
- 中流域(Andesエリア):20℃
- 下流域(Costaエリア):15℃
日較差が、大きくなると、ぶどうには以下のメリットがあります。
- 酸が保持される
- フレーバーの複雑さが増す
- ポリフェノールやタンニンの発達
- ブドウがゆっくり成熟し、収穫時期が遅くなる
- 病害のリスクが低くなる
以上のように、Elqui Valleyは、日較差、つまり昼夜の寒暖差が、非常に大きいことが、テロワール特徴の1つです。上流域では、日較差が、25℃以上にもなります。
標高が高いのに、温暖?

上・中流域(Andesエリア)は、標高が高いにもかかわらず、温暖です。一般的には標高が高くなると気温は低くなりますが、Elqui Valleyでは、逆になります。
それは、高標高に、低緯度による強い日差し、アタカマ砂漠による乾燥、年間300日以上晴天という要因が重なり、地表が温まりやすいことが理由です。
標高が高いのに、温暖になる具体的なメカニズムは、以下のとおりです。
- 標高が高いほど大気が薄いため、太陽光が大気に吸収される前に地表に届き、太陽の直射光が強くなる
- くわえて低緯度なので、日差しが強い
- 乾燥していると湿度がないため、空気が暖まりやすい
- 直射光が強く、日差しが強く、乾燥しているので、地表が温まりやすい
- 昼の気温が高くなり、温暖
このように、Elqui Valleyの上・中流域(Andesエリア)は、標高が高いにもかかわらず、温暖です。
究極の栽培環境

標高1,500m以上のElqui Alto地域は、究極の栽培環境と呼ばれています。
なぜなら、高標高による極端な気候条件で、ブドウ栽培が行われているからです。
具体的な気候条件は、以下の通りです。
- 紫外線が非常に強い
- 昼は30℃近くまで上がるが、夜は5℃以下に冷え込むこともある、極端な日較差
- アンデス山脈から乾燥した冷風「El Laco」が、吹き下ろす
- 極度に乾燥した環境(年間降水量100mm以下)
Elqui Altoとは?
D.O. Elqui ValleyのAndesエリアの中でも、標高1,500m以上の地域が、Elqui Altoと呼ばれています。
冷涼気候栽培地

Elqui Valleyの下流域(Costaエリア)は、冷涼気候栽培地です。
なぜなら、未明に、沿岸で発生した「冷たい海霧」と「冷たい海風」が、下流域(Costaエリア)の渓谷の奥深くまで入り込み、昼間の気温上昇を抑え、冷涼だからです。
「冷たい海霧」と「冷たい海風」は、太平洋を流れるフンボルト寒流が生みだしています。
下流域(Costaエリア)が冷涼になるメカニズムは、以下の通りです。
- 未明に沿岸で発生する、冷たい海霧は、渓谷へ入り込む
- チリ特有の海岸山脈がないので、冷たい海霧が、さらに渓谷奥まで入り込む
- 太陽が昇ると、冷たい海霧は、消える
- 太平洋から、冷たい海風が、吹き出す
冷涼気候栽培地におけるブドウ栽培の主なメリットは、以下の通りです。
- フレッシュで爽やかな酸が保持される
- 華やかで繊細なアロマが生まれる
- 果実味と酸のバランスが取れたワインになる
- アルコール度数が抑えられ、飲みやすいワインになる
というわけで、Elqui Valleyの下流域(Costaエリア)は、冷涼気候栽培地です。
土壌

Elqui Valleyの地層は、おおまかに火山岩・深成岩(花崗岩)・堆積岩・沖積土の地層が、複雑に分布しています。
- 火山岩(玄武岩、安山岩 etc)
- 深成岩(花崗岩 etc)
- 堆積岩(砂岩、泥岩、石灰岩 etc)
- 沖積土(砂質・礫質の土壌 etc)
複雑に分布しているのは、億単位にわたる、火山活動、プレート運動、浸食などを経て、Elqui Valleyが、形成されているからです。
Elqui Valleyの地層は、おおまかに、以下の順で形成されていきました。
- 古生代~中生代(約5億年前~1.5億年前)
- 海中で、堆積岩(砂岩・泥岩・石灰岩)を形成
- 白亜紀後期(約1億年前)
- 地下深部でマグマが冷却し、深成岩(花崗岩)を形成
- 火山活動で、火山岩(玄武岩、安山岩)を形成
- 新生代(約6500万年前~現在)
- 地殻変動で、アンデス山脈が持ち上がり、堆積岩(砂岩・泥岩・石灰岩)・花崗岩・火山岩(玄武岩、安山岩)の地層が地表に露出
- 河川により、 沖積土(砂質・礫質の土壌)を形成
このため、Elqui Valleyの地層は、複雑に分布しているのです。
ぶどう & ワイン

Elqui Valleyのぶどう栽培は、Wines of Chileによると、Pedro Ximenezの栽培面積が多く、シラー、ソーヴィニヨン・ブランと続きます。
主なブドウ品種の面積は、以下の通りです。
Wine Regions Map – Wines of Chile
- ペドロ ヒメネス 93 ha
- シラー 76 ha
- ソーヴィニヨン ブラン 64 ha
- ピノ ノワール 25 ha
- ティントレラ 22 ha
- モスカテル 17 ha
- マルベック 12 ha
- カベルネ ソーヴィニヨン 11 ha
では、補足を…
シラー
シラーは、Elqui Valleyを代表する赤ワインで、上〜下流域まで渓谷全体で栽培されています。
上〜下流域いずれのシラーも、黒コショウの香りの成分となっているロタンドンの香りがしっかり感じられます。理由は冷涼気候栽培地、昼夜の寒暖差、究極の栽培環境などで、冷涼な気温を利用して栽培しているからです。
特に、ドメーヌ「Viñedos de Alcohuaz」が、標高2,200mのAlcohuaz村でつくるシラーは、「北ローヌのコート・ロティやエルミタージュを彷彿させる繊細さと力強さをもったシラー」として、専門家や愛好家から高い評価を得ています。
ソービニヨン・ブラン
ソーヴィニヨン・ブランは、Elqui Valleyを代表する白ワイン。
上流域(Andesエリア)では昼夜の寒暖差、下流域(Costaエリア)では冷涼気候栽培地を活かして造っています。
柑橘系の果実やハーブの香り & エレガントな酸味とミネラル感のあるソービニヨン・ブランとして、世界的評価を受けています。
カベルネ・ソーヴィニヨン、カルメネール
カベルネ・ソーヴィニヨン、カルメネールなどの温暖系品種は、中流域(Andesエリア)で栽培されています。
中流域(Andesエリア)の、温暖 & 昼夜の寒暖差20℃以上となる気候を活かして、酸味のバランスがとれた良質なワインに仕上がっています。
ペドロ ヒメネス
Pedro Ximenezは、伝統的に蒸留酒のピスコ用ブドウとして栽培されてきました。そのため栽培面積も一番です。
近年は、辛口ワインに仕上げるワイナリーが増えてきています。
Alcohuaz村シラーの秘密
ドメーヌ「Viñedos de Alcohuaz」が、標高2,200mのAlcohuaz村でつくるシラーは、「北ローヌのコート・ロティやエルミタージュを彷彿させる繊細さと力強さをもったシラー」として、専門家や愛好家から高い評価を得ています。
その秘密は、北ローヌとAlcohuaz村の、栽培環境がそっくりだからです。
北ローヌの環境は、
- 花崗岩土壌
- 急斜面
- 昼夜の寒暖差が大きい
- 中央高地からのMistralによる冷たい強風
- 日照量が多い
Alcohuaz村は、
- 花崗岩土壌
- 急峻な渓谷
- 昼は30℃近い & 夜は5℃以下という極端な日較差
- アンデス山脈からの乾燥した冷風El Laco
- 日照量が多い
これらのため、北ローヌの特徴である黒コショウやスパイス感のあるシラーを彷彿させるワインを生みだしています。
このようなわけで、ドメーヌ「Viñedos de Alcohuaz」が、標高2,200mのAlcohuaz村でつくるシラーは、「北ローヌのコート・ロティやエルミタージュを彷彿させる繊細さと力強さをもったシラー」として、専門家や愛好家から高い評価を得ています。
まとめ
というわけで、「チリで、北ローヌのシラー!? Elqui Valleyワイン産地を探る」でした。
チリのD.O.Elqui ValleyにあるAlcohuaz村のシラーが「フランス北ローヌのコート・ロティやエルミタージュを彷彿させる!」として、専門家や愛好家から高い評価を得ています。
さらに、冷涼気候栽培地を活かしたワイン造りが続々とはじまっています。いま注目のエリアの一つです。
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